子どもの連れ去りにどのように対処したらよいか
2015年8月19日
夫から、「妻が一方的に子供を連れて出て行ってしまった。どうしたらよいか。」との相談をされることがよくあります。
妻が離婚を決意して、家を出る場合、多くは子供を連れて出て行きます。
このような場合、多くの夫は激昂し、冷静さを失い、中には強引に妻のもとにいる子どもを連れ戻してしまう方も少なからずいます。
しかし、このような実力行使をすることは危険で、場合によったら犯罪行為になり、子どもとのその後の面会交流の障害にもなります。
母が嫌がる子どもを無理矢理に連れ出した場合はともかくとして、多くの場合、家を出ることに子どもも同意していることでしょうから、夫の行為は犯罪と言われてしまうこともあります。
当事務所の見解
当事務所は、子どもを強引に連れ戻すことは、いかなる事情があってもお勧めできません。
まずは、冷静になって、妻と話し合い、子どもの今後を考えるのがベターですが、それはかなり難しいでしょう。
話し合いができない場合、子どもを自分のもとに連れ戻したいと考えている夫は、家庭裁判所に「子の監護者の指定、その他子の監護に関する審判」を申立て、あわせて、「子の引渡しの仮処分」を申立てたらよろしいかと思います。
現在の家庭裁判所の実務では、民法766条2項、家事事件手続法39条別表第2第3項の「子の監護に関する処分」を類推適用して別居時の監護者指定を認めていますし、あわせて審判前の保全処分として、「子の引渡しの仮処分」の申立てを認めていますので、上記が法的に可能となるのです。
もっとも、仮処分が認められるためには、監護者が父と指定される可能性が高いこと、父のもとで子どもを生活させることが子どもの成長にとってプラスであることなどの要件がありますので、そのハードルは決して低くはありません。
もっとも、妻が夫婦仲の悪化により、4才の子どもを静岡から埼玉へ連れ帰った件で、夫が審判前の保全処分を申立て、東京高等裁判所は、「家庭裁判所調査官の調査を経た上で、両親ともに監護適格を有するが、母による子の連れ去りは決して平穏なものではなく、子の生活環境を急変させた配慮に欠けるものである。」とし、妻から夫への子の引渡しを命じています。(東京高決平成24年10月5日)
子の引渡しの仮処分命令があった場合、夫(妻)は子どもを妻(夫)に引渡さなければなりません。
間接強制と直接強制
仮処分命令を無視し、子どもを引渡さないと家庭裁判所は、夫(妻)の申立てにより、「間接強制」、「直接強制」の処置を取ることになります。
「間接強制」というのは夫(妻)が妻(夫)に対し、子どもを引渡すまでの間、「一定額の金銭を支払え。」というもので、いわばお金を支払うようにと命じることで、子どもの引渡しを可能にするというものです。
これに対し、「直接強制」は、地方裁判所の執行官が、子どものいるところに出かけ、子どもを保護し、夫(妻)に引渡すというものであります。
学校や保育園での強制執行は、子どもや他の子どもに対する影響が大きいですので、2013年に地方裁判所が通達を出し、これを中止するよう求めています。
子の引渡しの仮処分命令が出れば、当事者はこれに従う方がよろしいかと思います。
なお、ハーグ条約では、「他方親の合意なく子を連れて家を出て国境を越えることは、その親の監護の権利を侵害する限り、不法」としていますので、夫や妻もこの国際的基準を無視できないでしょう。
最後に
父母との間で円満な合意がない限り、子どもが父のもとに行ったり、母のもとに行ったりすることは大きな精神的負担になりますので、夫や妻は、子どもの意思を十分に尊重し、別居時の監護者を決めることが大切です。
当事務所は、監護者の指定の件についても多くの経験を有していますので、皆様方からの相談があれば、適切なアドバイスができます。お気軽にお電話下されば幸いです。

